millについて考えてみる

近所の港に佇む、ぞうさんのような、カブトムシのような機械。車体に記された「Wirtgen W210」を頼りに調べると、、、アスファルト路面を敷き直すとき、古いアスファルト路面を切削するドイツメーカーの機械でした。milling machineというのですが、コーヒーミル、ペッパーミルのミル、アスファルトを「挽く」?ということに引っかかり、millについて調べ始めました。

答えを先にいうと水車と関係しますが最後に述べます。

田んぼのSL「朝倉三連水車」:農林水産省
朝倉三連水車 (農水省HPより)
Cold milling | Technology | Wirtgen
A milling process in which road construction materials are removed in layers and granulated creates the foundation for paving new surface layers.
路面切削機 Wirtgen W210 Cold milling machine ヴィルトゲン 切削作業→作業終了後ドラムの歯を点検交換→トレーラーにて搬出
路面切削機 Wirtgen W210 Cold milling machine ヴィルトゲン 切削作業→作業終了後ドラムの歯を点検交換→トレーラーにて搬出(c)trh200v1tr 2013 all rights reserved.撮影日:2013年1月30日都道外堀通りの道路舗装工事にてアスファルト路面を切削す...
製品 | Wirtgen Group
ヴィルトゲングループは5つのブランドで道路工事に関連する包括的な製品ポートフォリオを提供します。

milling machineを調べたら「フライス盤」(切削機械)のこともさします。

アスファルト・ミリング・マシンは「アスファルト切削機」でミルは「削る」、

フライス盤は金属や樹脂の塊から切削加工するミリング・マシン。

挽き臼と似ているのはグルグル回るところだけ。

「挽く」と「削る」、語源でどうつながるのか? 語源を遡ると「grind 挽く」しか見当たりません。削るはあとから出てきたようです。

mill

Etymology 1
From Middle English mille, milne, from Old English mylen, from Proto-Germanic *mulīnō or *mulīnaz (“mill”), from Late Latin molīnum or molīnus (“mill”), from Latin molō (“grind, mill”, verb), closely allied to Proto-Germanic *muljaną (“to crush, grind”)

どうもやっぱり砕く、挽く、すりつぶすが元祖で、挽き臼がグルグルまわってゴリゴリの様子からの派生で削るだろうか。millをさらに辞書にあたってみます。

mill (plural mills)

  1. A grinding apparatus for substances such as grains, seeds, etc (挽き臼)
  2. The building housing such a grinding apparatus. (水車小屋 watermill
  3. A machine used for expelling the juice, sap, etc., from vegetable tissues by pressure, or by pressure in combination with a grinding, or cutting process.(ミキサー?) 
  4. A machine for grinding and polishing. (削る、磨く機械)??
    a lapidary mill (宝石研磨機)!!
  5. The raised or ridged edge or surface made in milling anything, such as a coin or screw.
  6. A manufacturing plant for paper, steel, textiles, etc. 
    a steel mill (製鋼所)!!
  7. A building housing such a plant.
  8. (figuratively) An establishment that handles a certain type of situation or procedure routinely, or produces large quantities of an item without much regard to quality, such as a divorce mill, a puppy mill, etc.
  9. (figuratively, derogatory) An institution awarding educational certificates not officially recognised
  10. (informal) An engine.
  11. (informal) A boxing match, fistfight.
  12. (die sinking) A hardened steel roller with a design in relief, used for imprinting a reversed copy of the design in a softer metal, such as copper.
  13. (mining) An excavation in rock, transverse to the workings, from which material for filling is obtained.
  14. (mining) A passage underground through which ore is shot.
    A milling cutter.
  15. (historical) A prison treadmill.
  16. (CB radio slang) A typewriter used to transcribe messages received.

ミルの意味が思ったより多様でびっくりです。

mill の意味 6 製鋼所のこと、スティールミル(steel mill)。そばやうどんみたいに延ばしていく。熱いところで延ばしてその後常温で延ばす。熱間圧延機をホットストリップミル、冷間圧延機をコールドストリップミル。高張力鋼板を熱管理して行う「熱延ハイテン高品質高効率製造技術」の記事より引用。

http://guide.jsae.or.jp/topics/60629/ 日本塑性加工学会より「学会大賞」を受賞【新日鐵住金】

millの意味 15 (historical) A prison treadmill. 心臓の血管狭窄具合を運動負荷によって調べる機械を「トレッドミル」といいますが、それはこの囚人が動輪を回す刑罰( A prison treadmill )に由来し、今は非人道的として廃止されています。

a prisoner’s treadmillについて、「tread」はペダルのこと。トレッドミルは本来「足踏みミル」(ちなみに検査で使うトレッドミルはランニングマシンみたいなベルトコンベアで踏む様式ではない)。


上記辞書のmillの意味5です、 The raised or ridged edge or surface made in milling anything, such as a coin or screw. コインの側面の加工もミリング。ところで古い十円硬貨になぜギザギザがあるのか。

世界で最初のお金
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: IMG_2725.jpg

大変昔の人は金貨銀貨の縁をちびちび切り取って失敬していました(clippingという)。その防止のためにギザギザを発明したのはアイザック・ニュートンだとされます(王立造幣局所長をしていたときに)。コインの縁に文字があったり装飾があったりするのはコイン削り泥棒防止の為。

昔のお金は真円ではなかった。たい焼きのハネの部分を失敬できないように「真円」にコインがなり縁取りに装飾が増えました。円形にするための「縁の加工」を「milling」といいます。

かつて金貨銀貨に施されたギザギザを真似たのが日本の「ギザ十」。「ギザ十」は昭和26年から33年まで鋳造。当時「最高額の貨幣」で一般に高額貨幣にギザがつきます。

wikipedia 側面のギザギザ

貨幣学の分野では硬貨のギザギザを総称としてReeding、米国ではridgedあるいはgrooved、イギリスではmilled。語源は葦(Reed)、葦が並んだ縦縞のような模様のことをReeding、今は手触りで識別できることに役立つだけですが。

Fluted vs Reeded Wood Shaping used on chair legs より引用

下記動画、コインのクリッピング(窃盗)の様子とミリングについて解説。

コインのミリングの模式動画(縁を加工してクリッピングし難くする)

コインの縁が盛り上がっているのはミリングの結果。エンボス加工図案保護やコインを積み重ねやすくしたりする役目がある。


 A machine for grinding and polishing. (削る、磨く機械!)

挽き臼の動力は水車です。水車は英語で「watermill」水車は動力に革命をもたらしました。水車小屋は動力伝達装置の発明とともに用途は多様に使われました。もともとは製粉だけでしたが、紡糸、製材、鍛造、宝飾加工などに使われました。

wikipediaより引用 By Jean-Pol GRANDMONT – travail personnel (own work)

水車小屋は水の流れを利用して羽根車を回し、それを動力として製粉や紡糸製材鍛造などをおこなう場所で、加工の対象となるのは主に穀物、木材生地鉱石金属などである。水車小屋というと麦から小麦粉を作る製粉所をイメージするが、実際、最古の水車小屋は製粉所であった。紀元前280年から220年頃に生存したとされるギリシャ人技師、ビザンティウムのフィロンは水車小屋の仕組みについて書き残しているし、ローマのウィトルウィウスは歯車を使った下掛け水車の建設方法に関する最古の技術解説をしている。暗黒時代に入る頃には水車小屋は生活に欠かせないものとなり、ほとんどすべての集落に設置されるまでになる。それ以降もヨーロッパ人は、水車を動力とする製粉所の建設と運用方法を継承しつづけたが、効率と経済性にまさる蒸気機関や電動の製粉機が出現すると、水車を使って小麦やトウモロコシを製粉するのは文明から切り離された一部の人々だけとなった。

シヴィロペディア 水車小屋

宝石研磨を水車で行っていた街があります。ドイツ イーダー・オーバーシュタイン。

Idar and Oberstein are two little cities in Germany close to Frankfurt. They have been a gemstone mining and lapidary center for several generations. Hidden beween rolling hills there are many little villages grouped along the rivers and streams. This was the main energy source for powering the lapidary industry.

Idar-Oberstein the city of gemstone carvers

ドイツのイーダーオーバーシュタインでは「砂岩」の車輪をまわして、瑪瑙を加工していました。砂岩なのでそれほど硬くはない瑪瑙を加工してカメオをつくります。

Millstones
I have to take a moment to speak about what was going on in Germany at this time. The major cutting center of Germany is Idar-Oberstein, and they held on to ancient stone cutting practices for longer than anyone else in Europe. Idar-Oberstein started cutting stones on waterwheel-powered cutting mills towards the end of the 1200s. The work was hard and slow and back breaking. Before the existence of a flat spinning wheel impregnated with diamond powder, there was sandstone. Giant sandstone wheels were turned by the force of a running river. Sandstone, an organic abrasive made of quartz grains held together in a natural cement, was probably the earliest abrasive in history. For reference, sandstone is a 6-7 on the Mohs scale of hardness, whereas emery is between 6 and 9, depending on its specific mixture of corundum, spinel, and other minerals.

Lapidary Technology Through the Ages: Laps and Polish より引用
lapidary technology history - Sandstone Cutting Wheels in Idar-Oberstein
Sandstone Cutting Wheels in Idar-Oberstein. Photos by Justin K Prim 水車で砂岩を回して瑪瑙を削ってカメオを作る。

ドイツのヴッパダールでは水車動力で鍛造が行われ、動態保存されています。下の記事に詳しいです。

プッチ社長と巡る鍛造のルーツ in ヴッパタール ~前編~ | ファクトリーギアブログ
一般公開されていない「クニペックス博物館」 | ファクトリーギアブログ

上記のヴッパダールにあるクニペックス社の製品は全世界で使用され、現在日本でも普通に手に入ります。

KNIPEX - The Pliers Company. - 私たちはKNIPEXです。
PLIERS - KNIPEX, the leading pliers specialist - High Performance Pliers with complete Online-Catalogue, Pliers-ABC!
https://www.yodobashi.com/?word=knipex

イギリスではリチャード・アークライトが水力紡績機を作りました。

日本でも、韮山反射炉で大砲の中(砲腔)をくり抜くのに水車の動力が使われました。

伊豆の国市HPより引用

長くなりましたがまとめます。

ミルについて調べました。水車小屋で当初行っていた挽き臼「millstone」による「製粉」が主で、ミルの語源もgrindでした。調べてみると水車はwatarmillであり、その動力で「宝石加工」や「材木加工」そして「鍛造」「紡績」など多様な産業にその動力が使われていたことがわかり、水車小屋(watermill)は「挽く」だけから原動機のニュアンスになったように思えます。

山間部にしか水車が設置できないため、ドイツの山間部が鉄加工や宝石加工など工業揺籃の地であったことも納得がいきます。現在「ミル」が「切削機械」や「製鋼所」を指したり「製糸場」「紙工場」など様々に使われるのはその「水車動力」しか無かった頃、動力伝達技術の発達とともに多様に使われてきた歴史に遡れるようです。冒頭にお示ししたアスファルトを削る機械やフライス盤などがmilling machineと呼称することも、かつてそれらの動力源がかつて水車watermillであった時代に遡れるもので、水車小屋の動力で宝石や金属を削ったりしていた光景とつながるように思えました。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


<参考>

水力紡績機

水力紡績機 - Wikipedia

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