くさきった

くさきった

97歳のおばあちゃん「あす(脚)、くさきったの、お陰さんで治りました。」

へ?って顔してたら、ご家族が言う、

「新潟弁です。足のむくみが取れたと言ってます。むくみのことをくさきったとか、くさがきたと言ったり。」

「帰って調べてみます!」と返事した。いやそこ、「治ってよかったです」だろ。


新潟ではクサがきた、で浮腫を指す。

クサにどういう漢字があるか

クサとよむ漢字、草?、種?、、、瘡これもクサとよむ。瘡はカサとも読む。むくみを皮膚病変とすればこれか。しかし、瘡クサは、多様な皮膚疾患を表しうる。凍瘡(しもやけのこと)、狼瘡、瘡蓋(カサブタ!)、などなど。

カサブタのカサとクサ、音が近い。カサは乾燥したかんじだが、クサは湿った感じで臭いそう。ニュアンスが違う気もする。

皮膚をカサカサと言ったりするがそもそもカサ(瘡)自体に皮膚病の意味があるのが面白い。

新潟弁でクサキッタではクサは浮腫をさす、一方で皮膚病全体も瘡(クサ)という。それともお婆ちゃんは皮膚病全体を表現するクサのイデオム「クサが来た」で固有の浮腫を伝えたのだろうか。

浮腫を表す「瘡 クサ」があるだろうか。辞書で調べてみる。

もがさ、痘瘡、天然痘の皮膚病変をいう。「この世の中は、もがさおこりてののしる」蜻蛉日記。もがさの治癒後の瘢痕をアバタ。痘瘡、もがさはもっと古い時代「いもがさ」だったそうでイモの根粒のような皮膚病ができる。天然痘をイモと呼ぶ地域もある。

がんがさ、雁瘡、雁のいる冬季になる病気。渡り鳥の雁は、秋にやってきて春に帰っていく。雁のいる間、つまり冬の乾燥で起きる乾皮症のこと。雁来瘡ともかく。こせがさともいう。

面瘡 にきびそばかす、顔にできる瘡のこと。

人面瘡、下絵、左の人の左膝に顔が。

漆瘡 漆かぶれ、接触性皮膚炎

褥瘡 とこずれ。ずれ応力と虚血による。

狼瘡 SLEの症状。もののけ姫のメイク様。自己免疫性疾患。

水疱瘡 =水痘。水痘・帯状疱疹ウイルスによる。

鵞口瘡 口腔カンジダ症 真菌感染。

まとめ

自己免疫からウイルス・真菌、接触性皮膚炎に褥瘡まで皮膚病全部を「瘡」と言うが、新潟方言のようにクサが必ずしも浮腫のみを限定的に意味しない。クサが来たのクサは瘡(クサ)ではないのかもしれない。

おばあちゃんの「くさきった(浮腫んだ)」のくさ。Plantの「草」なのか?皮膚病変全般の「瘡」なのか?

クサ(草)のもともとの音に湿っぽいイメージがあるのではないか(仮定)


植物名に、くさよし(草葦)、くさねむ(草合歓)がある。湿地に生える。これらは草の意味。

クサヨシは葦と別属で、湿地には生えるのは一緒だが、見た目が葦よりも「草っぽい」のでクサヨシ。

クサネムはネムの木の葉に似ているが草本植物で木本植物ではないゆえに見分けのために冠した「草」。


地名に草がつく場合、湿地や草地を時に表す。広島西区に「草津」がある。海の近く。草が「湿地または草地」を意味する。「クサが来た」の浮腫、地名のクサ(草)どちらも水っぽい。こじつけ臭いけど。。浅草ももともと低湿地である。葦が生える低湿地に作られたのがヨシ原。

国土地理院、明治期の低湿地データ https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/lc_meiji.html 都市圏ほとんど低湿地。

埼玉県草加市。低湿地

栃木県鹿沼市草久(くさぎゅう)谷底地形

広島県福山市 芦田川河口に近い中洲に中世繁栄した草戸千軒。室町の16世紀初頭まで存在した港湾都市だが洪水で流された。

草津温泉の草は陸という意味らしく、陸の津という意味だそう。縄文海進もそこまでは来ていない。

再び国土地理院の「明治期の低湿地」がどのように選ばれたか。下表、ほぼ湿っぽい感じがするが、明治期の低湿地選定に草地が包含されている。

草地の成り立ちを考える。草地は森林には育たない。草地はもともと湿地だったところに草が生い茂って成り立つ。湿地は地盤がゆるいので灌木は育っても巨木は育たない。森林では日光が届かずあしもとに草が生えない。よって低湿地が草地の母体とは考えうる。釧路湿原、遠目に見ると広大な草地。木はまばらにしか生えていない。あんなかんじか。

蛇足、熊本の天草は海人の民草でアマクサらしいが諸説ある。

結局97歳新潟出身のおばあちゃんの「クサきった」、「クサがひいた」(新潟弁でクサ=浮腫)のクサの語源を突き止められませんでした。

お読みいただきありがとうございます。

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