

群馬四万温泉の旅館で出されたお茶が美味しかったので銘柄を聞いたら「霧島の西茶の喜びというお茶です」と。便利な時代でネットで注文し翌々日届いた。感謝感謝。そういえば新茶の季節です。
早速。50度から60度で1分。温度管理が面倒だなと思いつつきちんと作ったら甘くて渋みの少ないお茶ができた。旨い、これこれ、温泉宿の気分が復活。低温でつくる玉露っぽい。「喜」というこのお茶、玉露とは書いてないが複数の品種を合わせたブレンドのお茶で「天然玉露」と言われる朝露という品種がブレンドされている。煎茶なのに玉露みたいにうまいのはこれかも。煎茶というと70-80度なのに、50-60度で煎れる科学的背景を知りたい。理屈がわかったら実行できる性分なのでしらべよう。と、整理していたらドツボにはまりました。

- 玉露と煎茶の違いとは栽培方法
- カテキン(渋味)とテアニン(旨味)とは競合する
- タンニンは性質を表し、特定の物質を指すのではない
- タンニン活性つまりタンニンの性質とは”蛋白質と結合して凝集させる”こと
- 収斂味とは渋みのことで味の5要素に入らない(味ではない)
- 渋みと苦味とはちがうのか →苦味には味覚受容体があるが、渋みには対応する味覚受容体がない
- タンニン酸アルブミンという下痢止めは腸粘膜を収斂して止瀉作用を示す
- ポリフェノールの語源
- 低温で作ったお茶の味が違うのはなぜか →低温だとガレート型カテキン(渋み)が出にくいしカフェインも出にくいから
- お茶の渋みの原因EGCGは悪者かというとそうではなく抗がん、抗ウイルスなどの生理活性がある
- ガレートとは没食子酸のこと 加水分解性タンニンの基本骨格を成す
- 玉露と上級煎茶にはそもそも旨味(アミノ酸)が豊富
- 機械で味を評価する味覚センサー
玉露と煎茶の違いとは栽培方法
宇治園HPより引用。

茶葉は日光を浴びると葉の中で「光合成」という働きが起こります。光合成が行われると渋み成分のカテキンが増加し、逆に遮光して光合成を抑えると カテキンの増加を抑え旨み成分であるテアニンの含有比率が増えます。
宇治園HPより引用
茶カテキン、って聞いたことある。なにやら体に良さそうだな。
カテキン(渋味)とテアニン(旨味)とは競合する
茶葉の旨味成分テアニンは日光に当たると減り、減った分だけ渋み成分カテキンが増える。つまり競合する。
テアニンはお茶特有のアミノ酸で茶の旨味成分、茶の旧学名“Thea sinensis”にちなんで“Theanine(テアニン)”と命名された。1950年に京都府立農業試験場茶業研究所で玉露から発見された。
テアニンは植物の中でもチャノキ(Camellia sinensis)とそのごく近縁種、そしてキノコ(菌類)の1種であるニセイロガワリ(Boletus badius)にしか見つかっていないアミノ酸であり、茶の旨味成分の1つである。テアニンは乾燥茶葉中に1%から2%程度含まれ、特に上級な緑茶に多く含まれている。また、テアニンは茶の等級に関わらず、全遊離アミノ酸の約半量を占めている。テアニンは茶葉が含有する窒素の過半を占めており、チャノキが、吸収したアンモニア態窒素を植物体にとって安全な形態にして、蓄積するために合成している物質と考えられている。茶でテアニンは根で生成され、幹を経由して葉に蓄えられる。テアニンに太陽光が当たるとカテキンに変化する。特にテアニンを多く含有する玉露の原料となる茶葉は、収穫の前(最低2週間程度)日光を遮る被覆を施される。これにより、煎茶の旨味の原因とされるテアニンなどのアミノ酸が増加し、逆に渋みの原因とされるカテキン類(いわゆるタンニン)が減少する。
テアニン wikipedia より引用
タンニンは性質を表し、特定の物質を指すのではない
”カテキン(いわゆるタンニン)”と、直前の引用文の最後にある。ワインなどでも聞くタンニンの定義ってなんだろう?。wikipediaによるとタンニンという単一の化合物があるのではなく、「タンニンは性質を指す」。
タンニンは特定の性質に対して冠せられる、化合物を分類するための名称である。しかし化学の分野では1990年頃からこのような性質ではなく化学構造で分類した名称を優先することが多くなっており、このためタンニンという名称が用いられる機会は減っている。タンニンの定義に合致するような化学構造上の分類名がないため、より広い範囲にあたるポリフェノール化合物の一部として呼ばれることが増えている。
タンニン wikipediaより引用
タンニン活性つまりタンニンの性質とは”蛋白質と結合して凝集させる”こと
タンパク質と結合するタンニンの性質というのは、渋みのもとになる(例えば茶カテキンもタンニンの一つ)。
タンパク質と結合するタンニンの性質は、皮なめしに使われる(皮なめし屋を英語でタンナー)。
タンニン活性とは”タンニン”がタンパク質と結合して収斂作用(しゅうれんさよう)を示すもの。タンパク質を変性させることにより組織や血管を縮める作用のこと。アストリンゼント(astringent)効果とも呼ばれる。
このタンニン活性が渋い。背景として口の中がタンニンによって収斂している。これを収斂味ともいう。
収斂味とは渋みのことで味の5要素に入らない(味ではない)
収斂味(しゅうれんみ) 灘酒研究会HPより
清酒を口に含んだ時に口中をしめつけるような感じを与える味のこと。収斂味(しゅうれんみ)は舌・頬の内側・唇の内側・歯茎などの細胞を収縮させることにより感じる触覚に近い感覚と考えられており、味覚の神経細胞を刺激することにより感じる味とは異なる。
赤ワインではブドウ由来のタンニンによる渋味が特徴とされているが、収斂味はこの渋味と似た感覚である。渋味は苦味と収斂味が複合した感覚であるとも考えられている。
ワインとは異なり、清酒の場合、収斂味は欠点を指摘する用語として用いられる。
コトバンクでは、収斂味を次のように定義する
渋みと苦味とはちがうのか →苦味には味覚受容体があるが、渋みには対応する味覚受容体がない

人間の5つの味覚は、あまい、すっぱい、しょっぱい、にがい、旨味
シブいは入らない。渋いは前述のとおりで「触覚」である。というのが教科書どおりの説明になる。
コーヒーは苦い、お茶は渋い、渋柿は渋い、ビールは苦いというふうに使い分けているし自分の感覚として苦いと渋いは違うと識別できる。個人的には渋いも味のうちだという気がする。なぜなら渋いも苦いも、甘みを引き立てる関係にあると思うから。だが定説は次の通り。
化学成分で分けられている。
渋み物質・・・タンニン(植物由来のポリフェノール)と総称される収斂味→触覚
苦味物質・・・カルシウムやマグネシウムなどの無機塩(苦土ともいう)、アルカロイド類のカフェイン、テオブロミン、ニコチン、カテキン、テルペノイドのフムロン類、リモニン、ククルビタシン、フラバノン配糖体のナリンジン、苦味アミノ酸、苦味ペプチド、胆汁酸。
下記文献(赤ワインの渋み 独立行政法人酒類総合研究所 後藤奈美)によると、苦味には味覚受容体があるが、渋みには対応する味覚受容体がない。したがって渋みは味覚ではなく触覚に近い感覚である。辛いの本質は痛いと同じ、に似ている。

赤ワインの渋み 独立行政法人酒類総合研究所 後藤奈美
タンニン酸アルブミンという下痢止めは腸粘膜を収斂して止瀉作用を示す
腸粘膜表面のタンパク質と結合して不溶性の被膜を形成し(収斂薬)、粘膜の保護作用、炎症抑制作用を示す。
それにしてもタンニン酸の化学構造式でかいな・・。薔薇という漢字が書けたらモテるらしいが、タンニン酸の構造式書けたらはたしてモテるだろうか。。。


ポリフェノールの語源
フェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)をたくさん(=poly)持っているからポリフェノール。茶カテキンであるフラボノイドはポリフェノールの代表例。




低温で作ったお茶の味が違うのはなぜか →低温だとガレート型カテキン(渋み)が出にくいしカフェインも出にくいから
温度によって抽出される成分の割合が変わるから味がかわる。
なるほど・ザ・水出し緑茶というサイト(農研機構)より引用
お茶にはエピガロカテキン(EGC)とエピガロカテキンガレート(EGCG)が含まれ、EGCGはEGCに比べて強い苦味と渋味を持っている。EGCはおだやか、EGCGは荒々しい。低温でいれるとEGCGが出て来にくい。
それから低温で抽出するとカフェインが出てきにくい。


お茶の渋みの原因EGCGは悪者かというとそうではなく抗がん、抗ウイルスなどの生理活性がある
ポリフェノールが体にいい、という話につながる。
EGCG(エピガロカテキンガレート 苦いやつ) には次のような生理活性がある。
- がん細胞増殖抑制作用、不要な細胞へのアポトーシス誘導作用
- ヒスタミン放出抑制作用(=抗アレルギー作用、花粉症にきくのか)
- 血圧上昇抑制作用
- 脂質代謝改善作用
- 抗ウイルス作用
- 神経保護作用
緑茶の摂取量が多い人は、がん・循環器系疾患・認知症などの発症リスクが低下する。
お茶のカテキンはポリフェノールの一種である。カテキンはタンニンの一種で渋い、渋いほどカテキンが多い、つまりポリフェノールが多い。
EGCG(エピガロカテキンガレート)が作用する細胞膜上の分子の一つが「67LR」、ここを介して抗癌作用を示す。
EGCG(エピガロカテキンガレート)を狙って飲むなら高めの温度で渋くいれてエピガロカテキンガレートたっぷりのを飲むほうが良いかな。わたしは健康効果よりも甘くて旨い”ぬるい”お茶のほうが好きだ。まあ良薬は口に苦しって言うしネ。
ガレートとは没食子酸のこと 加水分解性タンニンの基本骨格を成す


没食子酸(ガレート)は、五倍子(ヌルデの虫こぶ)、没食子(もっしょくし ブナ科の植物の若芽が変形し瘤になったもの。これも虫こぶ)、マンサク科の植物ハマメリス(Witch-hazel)、茶の葉、オークの樹皮など、多くの植物に含まれる。加水分解性タンニンの基本骨格を成す。
没食子酸は4世紀ごろから千年近く使われた青インク(没食子インク ブルーブラックインク)の製造に使われる。還元性が強いので油脂・バターの酸化防止剤に使用される。カテキンの一種であるEGCG(エピガロカテキンガラート)も没食子酸のエステルである。
千葉県立博物館より引用 ヌルデの虫こぶ 中にアブラムシが満載(リンク先 グロ中尉 割面像あり)




玉露と上級煎茶にはそもそも旨味(アミノ酸)が豊富
上級煎茶の何が違うのか、安いお茶でも頑張って低温で作れば旨味のあるお茶ができるんじゃないのか。残念ながら決定的な違いがあった。上級煎茶と玉露には旨味成分であるアミノ酸が多く含まれる。普通の煎茶でいくら条件を変えても、それなりに味は変わりうるが限度があるということ。ザクとは違うのだよ、ザクとは・・
茶の旨味を欲する人が旨味の多い茶葉を買って旨味を最大に感じられる低温で煎れる。お茶の袋に50-60度が至適温度と書いてあれば、それはお茶の味の傾向を暗示する。
次はお茶をいれる温度での渋みと旨味を味覚センサーを使って研究した論文、茶葉による違いの評価のところを抜粋。
参考文献 異なる条件で浸出した緑茶の渋味およびうま味の味覚センサーによる評価


下図を見てわかるように、値段の高いかぶせ茶Aはアミノ酸濃度が高い。かぶせ茶Cは値段が安い二番茶で、アミノ酸濃度が低い。茶種により総アミノ酸濃度が異なる。


上記のかぶせ茶Bを官能評価と機械的センサーをつかった旨味推定量とで比べると、90度で入れたものは官能評価が低かった。50度でいれたものに比べ2倍のガレート型カテキンが含まれ渋みが強くなったため、旨味推定量がそれほど変わらなくても官能評価が下がった。↓


機械で味を評価する味覚センサー
同じビールなのに体調や気分によって味が違ったりすることを経験する。官能評価というのはそれで、お酒の品評会の利き酒みたいに人の舌と主観に頼ったもので体調に左右される。それに対し、客観評価のできる味覚センサー(機械)がある。九州大学の先生が作られたようだ。
https://www.saltscience.or.jp/symposium/2015-1.tokou.pdf

長くなってしまいました。お読みいただきありがとうございます。長くなったのは多分緑茶のカフェインのせいです (*´ω`*)
コメント