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北海道斜里の小麦乾燥工場で巨大トラクター群を見て以来、トラクターに興味を持ちました。全て外国製で北海道のような広大な農地向きには、無辺際の農地で培われたアメリカやヨーロッパの巨大トラクターを購入するほうが効率がいいようです。エンジンはベンツのをつかっていたり。
「トラクターの世界史(藤原辰史著)」を読書しつつ、登場するトラクターを検索し以下に羅列しました。マニアによって動態保存されているトラクターが世の中に沢山あります。そしてトラクターと関わる人々が可愛いです。そもそもは牛馬を耕耘に使いトラクターがそれに取って代わり、馬同様にトラクターを愛でレストアする人々。トラクターの語源はラテン語のtrahere”引っ張る”です。
「トラクターの世界史(藤原辰史著)」調べながら読むととても面白かったです。人に課せられた重労働はトラクターによって解放された反面、諸問題に直面します。スタインベックの怒りのぶどうの砂埃の場面はトラクターによる弊害のひとつ。トラクターの出現は農業の集団化を進め、共産圏ではトラクターが象徴的に描かれました。また、塹壕戦の膠着を突破する目的でトラクターを装甲したのが戦車のはじまり、というあたりは特に面白く読みました。キャタピラ付きトラクターを装甲したのが戦車の始まりだったのでした。
以下、読みながら本文に出てくる固有名詞、トラクターの画像や動画を貼り付けます。読書される方の絵の肉付けになれば幸いです。とくにトラクターの動画はエンジンの重い音が良いですね。大自然と人々ののんびりした雰囲気もいいです。
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トラクターの動力源も当初蒸気機関をつかい内燃機関に発展します。蒸気機関のトラクター、私は面食らいました。
Henry FordはこのNichols and Shepardの蒸気エンジンを見て、のちの自動車のアイデアを進めていく。自動車のアイデアのもとはトラクターです。p18
蒸気機関からは火が干し草に燃え移るそうで、火の粉が飛ばない内燃機関がそれらを解決しました。蒸気機関から火の粉が飛ぶのを初めて知りました。
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ニコラウスオットーはオットーサイクルエンジン(初めての内燃機関)を発明(特許取得 1877年。4ストロークエンジン)、さらに1884年低圧電磁点火装置を導入して改良し、液体燃料が使えるようにし移動する物体にエンジンを搭載することが可能になりました。
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オットー社にはあのダイムラーがおり、翌年独立して二輪車を作りました。
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ルードルフ・ディーゼルはディーゼルエンジンを開発。農業用トラクターには主にディーゼルエンジンが使われました。
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最初の内燃機関を積んだトラクターは米国でジョンフローリッチにより開発された。ジョンディア社のジョンはこの人!
ジョンフローリッチの最初のトラクターは売れませんでしたが、後に”ウォータールーボーイ”がヒット、これが最初のジョンディア社のトラクターとなります。ジョンフローリッチはトラクターでは成功を逃したものの自動洗濯機を開発して大儲け、どのみち器用な人。
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ジョンフローリッチはもともと、カントリーエレベーター(揚穀機)を作っていた。写真は斜里町の現在の小麦乾燥装置。
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同時期にCharles W. HartとCharles H. Parrは、ウィスコンシン大学出身の技師で「Hart=Parr No.1」を作りました。
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By Sean Lamb (User:Slambo) – Own work, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=285852
後発で1910年にトップに躍り出たのがIH社(international Harvester)、赤色のトラクターと言えばIH社。日本だと「燃える男の赤いトラクター」も赤です。IH社のマークが阪神タイガースみたい。
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Henry Fordはトラクターに触発されて自動車のアイデアを進めたのですが、上はフォードT型、ライン生産などでコストを低下し大量生産した話は有名で、トラクターの大量生産にも成功したそうです。彼が作ったトラクターが「フォードソン」。
第一次大戦による働き手不足もトラクター導入を促しました。
技術的な話です。”PTO”(PTOはPower Take Offの略)はトラクターの動力を後ろに連結した作業器に伝える方法です。動力源を共用するため、回転シャフトで連結して回転動力を伝達装置で伝え、犂を回転させたり。トラクターを単なる牽引動力から多目的機械化する発明です。しかし、トラクター動力をシャフト回転として作業機に伝達する部分は大変危険です。その連結部にお人形さんが巻き込まれる事故再現実験。子供を近寄らせてはいけない!と警告されます。
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IH社はPTOを導入したファーモール(商品名 Farm+all 全て農作業できる!)を開発。一台で畝づくりから全てできる多目的マシンの誕生。
ジョンディア社のD型 音からポッピンジョニーとも。音がポンポンいって可愛い。
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1933 Allis Chalmers WC。アリスチャルマーズ社は自社開発の空気入りタイヤをトラクターに初めて使用し乗員の振動負担を軽減しました。あのミスドのフレンチクルーラーみたいな走破性の高いタイヤがトラクターに装着され始めたのは1933年で、それまでは金属ホイールでした。
つづいてファーガソンの3点リンク これも技術革新です。本体と作業機のリンケージシステム。本体の油圧シリンダを経て作業機へ3点で犂に下向き圧力を伝え、作業機の荷重を増やさずとも深耕できるシステム。フォードにまねかれたファーガソンが発明。地下の石などに犂がぶつかったときに負荷のかかる連結部に損傷を防ぐスプリングを設置するなど工夫を凝らしています。
キャタピラー社の履帯型トラクター CAT20 黄色がキャタピラー社の色なのは昔からなのですね。
Caterpillar Sixty 1925年から1931年までCaterpillar Tractor Companyによって製造された60馬力(45 kW)のクローラートラクター
1926 Rumely Model S 30-60 インディアナ州の会社Advanced-RumelyCompanyはAllis-Chalmers Manufacturing Co.によって1931年に買収されました。
1929 McCormick Deering 10-20
1945年 ジョンディア社のJD typeH
p94 Lantz bulldog フォードソンより燃費がよく牽引力が強い。単気筒、水平、2ストローク、焼玉エンジン。Lanz社はジョンディア社に1956年買収される。
メーカーのカラーがあり、例えばジョンディアは緑車体と黄色のホイール、International Harvestのfarmallは赤車体、Fordのfordsonはオレンジ、Lanzは空色、CATは黄色、ファーガソンブラウンは空軍に使われるようなブルーグレー
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第一次大戦の塹壕戦の膠着を打開するために履帯型(キャタピラつき)トラクターをベースに装甲されたリトルウィリーが開発されました。塹壕を横断するのが目的です。
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マークⅠの暗号に水槽(tank)が使われたことに由来し、戦車のことをその後tankという。ドイツ軍兵士は、鉄条網を超えて進んでくる謎の新兵器にパニックに陥ったそうです。当初無線機は搭載されず、後方との連絡は”伝書鳩”が用いられたのだそうです。
フランスでも最初の戦車シュナイダーCA1が開発されました。
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ソ連ではCAT60のコピーのトラクター”スターリニェツ(スターリン主義者の意味)”が作られました。火砲を牽引する目的で使用。
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イタリアの戦車フィアット2000
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フランスルノーの戦車 FT-17 シュナイダーCA1を支援する目的。
Gunnyさんも楽しそう!
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ソ連を代表する中戦車 T34
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p118 ヴァレンタイン戦車
再び農業用トラクターに戻ります。
イギリスで第二次大戦中に使用されたフォードソンN型
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p122 Allis Chalmers B 可愛いデザイン!
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ファーガソンブラウンtypeA 性能は高いものの高価でした。フォード社との間でファーガソンの特許についてひと悶着あったようです。デザイン、色、私のメカ好きの心を揺さぶりますね。
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Ferguson TE20 これもハリーファーガソンのデザイン。
ファーガソンが発明した3点リンケージの特許を無断でフォード傘下の会社が使おうとして訴訟となりました。
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カナダの会社とファーガソンは合併。上のようなトラクターを作りました。
1956 Ferguson Model 40
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ファーガソン研究所はファーガソンP99という四輪駆動のF1レースカーを作リました。
p129 John Deere B
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p130 IH 300
john deere 4010
p131 IH Super M
p131 1977年 Big Butt社 747型 大型化が進みます。
IH社も負けずに大型 1978年 3388型(4WD)
IH社 1978年 3588型(4WD)
大型トラクターを纏めたビデオ
1960年代から日本の小型トラクターが既存メーカーの脅威となりました。1984年にはクボタは米国第三位となります。
東欧ソ連のトラクター まず、チェコのZetor Z25 チェコは第二次大戦以前から屈指の工業国です!
日本のプラモにもあるのだ!ゼトル25
チェコでのトラクタードラッグレース
p142 東ドイツも集団農場化が進みそのころ使われたのが東ドイツ産のトラクターbrand name”Pioneer” RS01。第二次世界大戦前にFahrzeug-und Motoren-Werke GmbH (Famo)によって生産されたトラクターFAMO XLをベースに作られました。ドイツのトラクターを検索するときにドイツ語のつづりでPionier traktorにするとより多くヒットする。
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元となったFahrzeug-und Motoren-Werke GmbH (Famo)の作ったFamo Radschlepper XL カッコイイ!
東ドイツのtraktor”Aktivist”その意味は活動家または模範労働者 V型ニ気筒ディーゼル
つづいて”famulus”意味は召使い。From Latin famulus (“servant”)
イタリア フィアットのトラクターp164
FIAT 702 1919-1925年 4気筒直列ガソリンエンジン
FIAT 211R グリルデザインがカッコイイ。愛称ラ・ピッコラ FIAT 1.1L 2気筒ディーゼル
フィアットはアメリカのIHなどの買収を進め、現在CNHインダストリーという社名になり、農機・建機部門で世界ニ位となっています。車のfiatが小さいから小さい会社だと思っていましたが間違い。ちなみに第三位がコマツ。
イタリア Landini 40 HP 1932-1937 Landini社は1959年にマッセイ・ファーガソン社により買収されました。
1948 Field Marshal Tractor 単気筒2ストロークディーゼルエンジン 英国 1945-1957 グロープラグ代わりに硝酸カリウムを含む紙に火をつけてシリンダーヘッドに突っ込む様子。field Marshal=陸軍元帥(日本のさなえ、太郎に比べたら大仰な感じがカッコイイ)
イタリア LANDINI L45 1950-1964
Fiat Oliver 1365 1975年 4WD
だいぶ現代的に。
FORD 1962-1975 Ford4000
日本のトラクター 小松製作所の最初のトラクターG25
G40のプラモデル
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コマツD35 ディーゼルエンジン
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/111C0000005-52707.pdf
コマツは戦後、食糧確保のためトラクターの生産に挑むも事情により中止。その技術はブルドーザー開発に役立ちました。
日本最初の歩行型トラクターは岡山の農民西崎浩さんが”狂人”と言われながら「丸ニ式自動耕耘機」を作りました。同じく岡山の藤井康弘さんが藤井製作所(現在の株式会社富士)にて歩行型耕耘機「丈夫号」を開発。よみかたはマスラオ号。岡山市の児島湾干拓地の”興除”(地名)で行われた耕耘機競技大会で一位となりました。出雲口伝ではフトニ大王が吉備国を侵攻したのは鉄産地だったからで、このあたりは鉄加工技術が培われた地でもあります。その鉄加工職人にマスラオ号の部品加工をお願いしたそうです。岡山の鉄技術といえば長船の刀も有名。
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1952年 冨士耕運機(藤井製作所)P型 ゴムタイヤを初めて装着
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島根県仁多郡亀嵩村の米原清男さんも歩行型トラクターの開発者。仁多郡亀嵩もたたら製鉄の遺跡があります。戦前より独力で開発。技術が認められ、発明助成金を高松宮から下賜されるなど偉人ですね。
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本田技研F150 ディーゼルが主流の業界に小型ガソリンエンジンを搭載したこと、動力と作業部とが直結した構造によって低価格で提供しました。バイク技術のノウハウを応用。
p218 日本の乗用トラクター クボタ ヤンマー イセキ
農業機械化促進法 国が機械化に補助金を出す、メーカーも頑張る。特に乗用型、大型化の流れ。
クボタ 国産初乗用型畑作用トラクター T15
乗用型水田用トラクター L15 水田は乗用トラクターの運用が難しい。
クボタブルトラ、クボタのベストセラー。
ヤンマー ディーゼルエンジンの小型化に成功した。HB型。
イセキは愛媛県松山市発祥 1953年イセキKA1型(運輸省型式は以後KA1とおし)
1966年 TB20型(ポルシェの設計思想を引き継ぐ)二気筒ディーゼルエンジン。1967年トラクターでの富士山登頂に成功。
那須高原の牧場で見つけた同型機
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ヤンマーや藤井製作所が岡山の児島干拓で開発、イセキは秋田の八郎潟干拓で開発。
そこのお方、だんだんトラクターが欲しくなってきましたね。最新式のトラクターをご紹介。ロボット化自動運転などが進んでおります。デザインも超カッコよくなっています。
クボタトラクターはこちら
ロボットトラクター無人仕様もあります。ちなみにお値段16,687,000円、ポルシェ買えちゃう。
イセキトラクターはこちら ”大地を駆ける野生動物”のようなデザイン。ドイツ製エンジン搭載。
ヤンマートラクターはこちら
ヤンマーのロボットトラクター動画
博物館もあるようです。
イセキ 三箇所ミュージアムがある。
クボタ バーチャルミュージアム
福岡クボタ博物館(大橋松雄農業機械歴史館)
個人的趣味に偏っているのは自覚しています。はい。。でも、ここまでたどり着いたあなたは相当。。。いや何でもないです。褒めてつかわす。いつもご覧いただきありがとうございます。どうぞ良い週末をお過ごしください。
コメント
すごく面白かったです。
小林旭がトラクターへの熱い思いを歌っていたCMを思い出しました。
福岡にトラクターの博物館があったんですね。知りませんでした。
いつもコメントいただきありがとうございます。
実は下書きで小林旭さんのも書いていたのですが消しました。
ニャスニャックさんから替え歌も歌ってはいけないと指摘を受けました。
「のえぬののののの~、なないのなぬなあああ、のねなのなねなね~♪」
もきっと駄目だと思います。全く暮らしにくい世の中でございます。