台北の空港へ向かう電車をホームで待っていた。か細い老婆がいた。体につり合わない大きな2つのトランクを支えて列に佇んでいた。老婆の荷運びを手伝ったのだが、何が入っているのか非常に重たかった。てっきり台湾人であろうと端から思いこんでいたが、ふと「ありがとう」と口が動いて聴こえたような気がした。ただ喧騒に紛れて判然としなかった。私のことを日本人と見抜いた台湾人はしばしばフレンドリーに日本語を使ってくれるから、この度もそうであろうと考えた。それにしても老婆のお礼の仕草が日本人ぽいなあ、と引っかかるところがあった。どっちだろうと考えながらゴトゴト電車に揺られる。老婆が第二ターミナル駅で降りる様子が見え、また荷運びを手伝ったのだが、その時も互いに何も喋らなかった。以心伝心の世界・・以心伝心している事自体で気づくべきだったのだが。おばあさんはお守りのようなものを無言で私にくれた。そして彼女は合掌してゼスチャーで謝意を示してくれたのだが、その時もやはり何も喋らなかった。私は第一ターミナルなのでそこでバイバイ。

おばあさんがくれたこれ、なんだろうと思って調べたら、日本の工芸品。江戸時代に盛んに作られたしじみの根付け。しじみの根付という大ヒントをくれたのに私が気付けなかった。
あのおばあさんとは結局のところ、ゴリラ同士の会話のように一言も日本語をかわさなかった、むしろゴリラのほうが喋るかもしれない。日本人同士がお互いを台湾人と思って、無言で、まるで魚のように一言も交わさずにゼスチャーをしていたのであった。ということならまだ良い。いや、、あのね、、もしおばあさんが私を台湾人と思っていたら「トーシャ」とかなんか言ってたはずだし、おばあさんは「ありがとう」と最初に私に言った。つまり、私だけが気付かなかったのか。最後まで彼女は恥ずかしそうに小さくゼスチャーで礼を示し、私もギクシャクしながらゼスチャーでお安い御用です、を伝えるつもりで体をヒクヒク動かした。あれはいつまで経ってもおばあさんが日本人だよって気付かない私に合わせてくれていたのであろうか。
日記を書きながら、私だけが気づいていなかった、という仮説が降りてきて恐ろしく恥ずかしくなっているところです。さて、おばあさんの降りた台湾桃園空港第二ターミナルは、日本航空、全日空、アシアナ航空、エバー航空などのフルサービスキャリア用で世知辛く言うと料金が高く、対し第一ターミナルはローコストキャリア用(例外として第一を使うスターラックス航空だけはフルサービスキャリア)です。願わくばあのおばあさんにもう一度会って、答え合わせをしてみたい。あーお互い日本人だったのねってなるか。多分おばあさんに「実は気づいてましたよ」って笑われる気がします。お読みいただきありがとうございます。
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