2021/08/24記 (2024/06/07 リンク切れを訂正)
姉崎港(中袖)停泊中のENERGY CONFIDENCE、川崎造船坂出工場製。船主は東京エルエヌジータンカー(親会社東京ガス)と日本郵船。
千葉に東京ガスの袖ケ浦LNG基地があります。
日本最大規模のLNG基地です。LNGは都市ガスのことです。最大の都市である首都圏に「都市ガス」を供給するのでやはり大きいですね。
続いてLNG船 ENERGY CONFIDENCEのプロフィールです
全長と巾: 289.5m と 49m
総トン数:124000t
総容積:155000m3
呼出符号: 7JDQ
IMO:9405588
MMSI: 432694000
IMO船舶識別番号(IMO Ship identification number)
海事上の安全、汚染防止、詐欺行為の防止を促進させるため、個々の船にその船の識別のため恒久の番号を指定したもの。船舶の国籍が変わっても,廃船になるまでこの番号は変わらない。MMSI 海上移動業務識別コード(Maritime Mobile Service Identity)
DSC通信装置を搭載した船舶・地上局に認識番号として交付される番号。
9桁の数字から構成され、最初の3桁は国籍を示す。
153,000m3型LNG運搬船の第2番船で、世界の主要なLNGターミナルへ入港可能な145,000m3型LNG運搬船の船体寸法を保持したまま、従来よりも約8,000m3多いLNG積載容量を有しています。
https://www.khi.co.jp/pressrelease/detail/c3090507-2.html エネルギーコンフィデンスの引き渡し Kawasaki HP記事より引用。
<特長>
https://www.khi.co.jp/pressrelease/detail/c3090507-2.html エネルギーコンフィデンスの引き渡し Kawasaki HP記事より引用。
1) 本船は、4個のモス型球形独立型LNGタンクを持ち、153,634m3の液化天然ガスを輸送する大型LNG運搬船です。
2) 4つの球形LNGタンクのうち、船尾側の3つのタンクについては、赤道部に高さ2メートルの円筒部分を追加してタンクを伸ばし、当社標準の145,000m3型からLNG積載容量を約8,000m3増やしています。
3) LNGタンクには、当社が独自に開発した川崎パネル方式による防熱システムを採用し、高い防熱効果によりLNGの蒸発率を約0.1%/日としています。
4) 貨物タンク区画は、二重船殻、二重底構造とし、LNGタンクはその内側に配置されているため、万一の船体損傷時でも直接タンクに損傷がおよばないよう安全に保護されています。
5) 操舵室は、最先端の電子航海機器を装備し、従来分散配置していた航海機器を集中配置して操作性の向上を図るとともに、全周に窓を配置して360度の視界を確保し、太洋航行中にはワンマン操船が可能となっています。
6) 荷役関係の監視・制御は、船橋下の居住区前面、貨物積込/揚荷区域の見通しが良い位置に設けた荷役制御室で行います。荷役制御室には、統合制御監視装置(IAS)を配置し、荷役関係の監視・制御のほか、機関状態監視を行えるようになっています。本IASは、開発時にオペレータの経験、意見を数多く取入れて、特にオペレータの操作性に配慮したシステムとしています。
モス方式のタンクとは?
モス(Moss)方式の独立球形タンクはノルウェーのオスロの南50kmのモス市で開発された方式で日本では三菱重工、三井造船、川崎重工がライセンス契約を行なっています。
wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/LNG%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%BC より引用
球形のタンクが載ってたらモス方式。モスという言葉自体なにかの略語か意味があるのだろうかと思ったものの「地名」でした。ところでモス市ってどこだろう。
モスは鉄器時代には既に存在するノルマン人の軍港でバイキング時代に定住があったようです。元はヴァルナという名前だった。モスを含む広域をVikenといいますが、バイキングの語源という説があります。余談ですがオスロはクリスチャニアという旧名でした。
モス方式(独立球形タンク方式)
船体から独立した球形タンクで、個々のタンクが自分自身の構造によって内圧を支えています。他の方式に比べてLNGの蒸発ガスが少なく、 溶接箇所が少ないことから品質管理が容易などの長所があります。また、2014年に球形のタンクを連続カバーで覆う「連続タンクカバー型(通称:さやえんどう型)」も登場しました。
莢豌豆とLNGタンカーの形が似ています。
莢豌豆!!
モス(MOSS)方式 LNG タンカー:ノルウェーのモスローゼンベルグ(MOSS ROSENBERG)社が開発し、タンクは独立球形タンクの構造をとる(上図)。このタンクは、球形赤道部を囲うスカートによって船体に固定される。材質はアルミ合金または 9 %ニッケルを使用し、タンク外周部の断熱材は硬質ウレタンフォームやグラスウールなどが用いられている。モス式の大きな特徴としては、航海中の荒波等によるタンク内部のスロッシング(液揺れ)にも強いことで、中間液位においても航海可能であることが各船社にてシミュレーションされている。現在 145,000m3 クラスが最大級として就航している。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001917/1001972.html
ノルウェーの”モスローゼンバーグ造船所”でモス方式LNG船は開発された
http://www.mossww.com/home/our-history/ より引用。
Moss Verft in 1902.
モスローゼンバーグ造船所の歴史をまとめます。1860年創業、Moss Værft 有限会社に1889年買収される。1927年経営不振から解散し同年Værft & Dokk によって資本立て直し。初代チェアマンはFerdinand Anker、Naziドイツによってノルウェーが占領されている間にAnkerが協力したとして判決を後に受ける。
Verftは造船所(Shipyard)のノルウェー語skipverftから。ヴェルフの派生語はスカンジナビア以外にドイツ語、ウクライナ語にも認め、ノルマン人の勢力圏と関係がありそう。
Kværner(クヴァーナー社 オスロ)によって Værft & Dokk は1961年に買収され、さらにRosenberg Verftを買収し、Moss-Rosenberg Verftに統合。この時代にモス方式のLNGタンクが作られました。1970年代にはモス市最大の雇用の場であったものの、1987年操業停止。Moss Maritimeに引き継がれます。
Moss Maritimeの歴史は、1973年に最初のモスLNG船がMoss-Rosenberg Verftから引き渡されたときに始まります。
1987年モスとフレドリクスタの造船所は、MRVの親会社クヴァーナーの下で統合、1988年エンジニアリング部門が造船所事業から分離しました。KVÆRNERMOSSTECHNOLOGYA(KværnerMossTechnology)に名称変更。1996年KværnerMossTechnologyはMaritimeEngineeringと合併し、新しい会社KværnerMaritimeを設立。
2000年 Kværnerとの資本関係解消、イタリアのサイペン社に買収され、現在に至ります。
https://www.mossww.com/history/
LNGタンカーのタンク3形式①モス方式②メンブレン方式③SPB方式
①モス方式は既述しましたので、その他の方式を述べます。
②GT方式(≒メンブレン方式)
=メンブレン方式、下図右側。要は船体の内側にメンブレン(膜)を貼り付けた感じですね。タンクは薄膜と呼んでも良いくらいの厚みの低温対応のインバー合金で作り、収縮による変形にも柔軟に対応します。フランスの作り方。フランスのガストランスポート(GAZ TRANSPORT: GT)社、のGT
右がメンブレン方式、左がモス方式。
”インバー合金”は熱膨張しない。鉄原子の電子配置変化による体積収縮と熱膨張が均衡するため、熱膨張しない。
インバー合金とは日本語では不変鋼と呼ばれる、英語のinvariable(インバリアブル)から。メンブレン方式のメンブレンとして使う合金で、熱膨張率が小さいことが特徴です。鉄に36%のニッケルを加え、微量成分として0.7 %ほどのマンガンおよび0.2%未満の炭素をいい具合にまぜたものです。下図、鉄とニッケル含有をちょっとずつ変化させていくとニッケルを36%にしたところで線膨張係数が最小となります。
1897年にスイス人物理学者ギヨームがFe-36Ni合金でインバー特性を発見し1920年にノーベル物理学賞を受賞。磁気歪みによる体積変化と通常の格子振動による熱膨張が相殺しあってある温度範囲での熱膨張が小さくなるもの。
おおお、スゴイな、熱膨張が最小になる背景。
鉄原子は、最寄りの内部エネルギーで、2種類の電子配位を取ることができる。1つは強磁性だが、もう1つはそうではない。強磁性配位のほうが非強磁性配位より幾分大きい体積を占めている。合金は温度が上がると徐々に非強磁性配位を取るようになる。これは、配位がエネルギー的に好ましくなるからである。磁性配位から非強磁性配位への移行による体積の収縮は、材料の自然な熱膨張によって相殺されるため、全体の体積はほとんど一定のままである。
インバー https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC
偶然の発見らしいです。軍事技術開発から。
熱膨張しないつまり寸法が狂わないので精密なものさしなど計測器、金属とガラスの封止・封着用途で腕時計に、振り子の長さが変わっては周期が変わるので振動発生装置に、また、サーモスタットの膨張しない側、レーザー機器の内部などに使われるそうです。大工さんの差し金もインバー(不変鋼)がはいっとるんじゃな。
③SPB方式(石川島播磨重工業)
その内部に構造部材が配置された自立角型タンクでありスロッシングが発生しない。スロッシング、揺らした容器の中で液がタップンタップンすること。船のタンクだと困るわけです。
IHI技報 IHI-SPB LNG 運搬・貯蔵・燃料タンクの安全性 より引用。
https://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/84f0dad0b27644717d92aa927897fbd1.pdf
その内部に構造部材をもつためタンク内 LNG の固有周期を自由に調整できる。たとえば、タンクに中心線の隔壁と前後に区切る制水隔壁をもたせて四つの区画に分けることができ、船体運動の固有周期と一致しないように、つまり、スロッシング現象が発生しないように設計している。これは、通常の船舶では一般的な手法であり、十分な実績をもつタンカーの制水隔壁( Swash Bulkhead ) と同じ機能である。
上記文献より引用。IHI-SPB LNG 運搬・貯蔵・燃料タンクの安全性
地上のLNGタンクのトップシェアは石川島播磨重工業
LNG受入基地およびLNG貯蔵タンクの国内トップシェアを誇るIHIグループは、海外市場にも積極的に進出し、インド、カタール、メキシコ、台湾、米国、中国において建設実績を有しています。特にLNG貯蔵タンクの建設では、金属二重殻式タンク、PC(プレストレストコンクリート)外槽式タンクおよび地下式メンブレンタンクとすべての型式に対応しており、世界トップシェアを誇ります。
石川島播磨重工業 プロダクツ より引用。
船のタンクも地上のタンクもIHI。IHIの技術は素晴らしいです。
まとめ
タンク一つでも色々な工夫があるのを知って驚きました。ノルウェー、モス市の造船所でピンポン玉載せたような天然ガスタンカーが開発され日本でライセンス生産していること、タンクの中のチャプンチャプン、トップントップンと液揺れしないことがタンク作りの目標であること、LNGタンクには他の形式もあること、メンブレン方式のタンクに熱膨張しない金属(インバー合金)が使われていること(それがノーベル賞をとった軍事関連技術)、などを知り面白かった~。
今週も皆様お疲れ様でした。
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