オンネトー 湯の滝

雌阿寒岳の麓にあるオンネトー湯の滝を見に行くため、入り口の駐車場に車を停めました。私が山道を進みはじめるのとほぼ同じタイミングで、誰か来るのを待って居られた女性客も進みはじめました。簡単な挨拶をして、並んで話しながらオンネトー湯の滝の方へ。駐車場から滝まで約1.5kmの道は森を縫う、熊が出るのじゃないかと少し心配になるほどの苔むした道で、高低差はあまりなく歩きやすい。あたりは緑鮮やか、歩道を外れたところの倒木はそのまま何年もかけて朽ちていくよう。静かな原始林の中にいる感じです。旅の失敗話(露天風呂に裸で入っていたら周りに客が来てそいつら足湯ばかりで出られなくなってのぼせた話)など談笑しつつ湯の滝に到着。喋ってたら熊よけになるらしい、とその人から聞きました。

35億年前の先カンブリア時代に始まった「マンガン鉱床生成現象」が今も進行中のオンネトー湯の滝。マンガンイオンを含んだお湯が、滝の表面を流れ落ちるうちに、酸素と合わさって酸化し不溶化、真っ黒な二酸化マンガン鉱物ができ、滝の斜面に沈殿しています。糸状藻類(シアノバクテリア)とその周りに住むバクテリア(マンガン酸化細菌)がコラボして、マンガン鉱床を現在も生成しています。一日に乾電池60個分のマンガンを生成しているのだそうです。

滝に触れると丁度いい温度。温泉として利用していた地元の人の気持ちが分からないでもないです。温泉の浴槽の隅っこに岩の隙間から湯がほとばしるようなのが設えてあるのを見かけますが、これはその壮大なバージョン。給湯仕掛け日本一、しかも天然!

滝壺の緑色の毒々しさに目を奪われます。以前は入浴できていたそうで、今は保護のため禁止。外来熱帯魚を放流させた不逞の輩がおり、糸状藻類を食われてしまいマンガン生成現象が見られなくなっていて、外来魚駆除に取り組んでおられるようです。滝壺部分は毒々しい色彩、この上に女の人が仰向けに浮かんだら、オフィーリアごっこできそう。でも入っちゃだめです。

滝壺。お世辞にも綺麗とは・・

駐車場から同行した人は滝を回るのが御趣味、いろいろな趣味があるのだな。その延長で登山も最近始められたと言う。斜里岳、阿寒などの3つの山を5日間かけて登ると。その人の話では屋久島がいいと、屋久島は飛行機で鹿児島まで飛んでそこから船で行く、1日目に滝を散策し、2日目に山に登る、そこの滝がいいですよと。一つのテーマを訪ね旅してる人に北海道ではよく出会います。滝の好みってありますか?と聞いたら滝の形を教えてくださった。直瀑と言うまっすぐ落ちる滝、そして滑滝(ナメタキ)と言って傾斜のなだらかな滝表面をサラサラと落ちていく滝、その人は”ナメタキ派”であると流れるように説明されました。私はしばらくナメタキを”なめ茸”と聞き間違えていて、なめ茸の瓶詰めやエノキダケと滝とがどうも結びつかないなと腑に落ちず、率直に聞いたらナメタキですと訂正してくれました。言葉が淀みなく湧いてくる人で無駄な言葉がなく聡明な人でした。

オンネトー湯の滝は、原始の地球を再現している場所

地球の誕生が46億年前、その数億年後に生物が現れました。現在見つかっている最も古い生物は、およそ35億年前に生きていた藍細菌、シアノバクテリアの化石。35億年前って先カンブリア時代。

藍藻が海にとけた金属イオンを酸化して沈殿させ、藍藻の死骸がストロマトライトという岩石になる

藍細菌は光と水と二酸化炭素を利用して、酸素を作り出す事ができる生物。ストロマトライトと呼ばれる石灰質の集合体を形成しながら酸素を作り出し、海に溶けていた鉄やマンガンなどを酸化し不溶化させ、例えば鉄であれば酸化鉄として海底に沈殿させました。作り出した酸素は、生物が呼吸するための空気の成分となりました。ストロマイト画像をカンタス航空のサイトで見ることができます。オーストラリアのストロマトライト。オンネトー湯の滝では世界で唯一、マンガンの鉱床が現在も成長を続けている場所。マンガン酸化細菌と、糸状藻類の2つが役割を担っています。マンガンを作ること以外にも酸素を作り出して生物が住める地球にしたのもすごいネ。

足寄動物化石博物館のマンガンの展示です。
1.2.3
4.5
1と2 菱マンガン鉱 3 縞状鉄鉱床
4 マンガン団塊 5 酸化マンガン鉱

縞状鉄鉱床(しまじょうてっこうしょう、Banded Iron Formation、BIF)は、写真のように縞模様が特徴的な鉄鉱石の鉱床で一般に非常に大規模な鉱床を形成しており、現在工業的に使われる鉄鉱石の大半がこの縞状鉄鉱床から採掘されています。イオン化して海に水溶していた鉄イオンが、酸素の存在下に不溶化して沈殿して作られました。

藍藻は浅瀬で酸素を作り、酸素を海に溶かす。したがって鉄鉱床は浅瀬でできたと考えられている

ストロマトライトは現在も特定の海岸などでも見られますが、ストロマトライトは光合成を行うシアノバクテリア(=藍藻)のコロニーが層状に発達してできた構造、いわば藍藻類の死骸のかたまりです。浅瀬で酸素を作り出し、海に酸素を溶かすので、鉄鉱床は海岸に近いところにできたと推定されています。二酸化炭素が消費され、酸素が作られる過程で二酸化炭素が急減し温室効果を減少させ地球大気気温が急激に下がったと考えられる約22億年前に起きたヒューロニアン氷期に、シアノバクテリアを含む(単細胞生物相の)大量絶滅が起きたと推定されています。もしかしたら、オンネトー湯の滝のシアノバクテリア君は、温泉に浸かりながら生き延びたのかも。。湯の滝のマンガン鉱床生成現象に、藍細菌が関与していることを通産省の地質研究をされていた三田直樹さんが発見しました。

2019年9月18日に行きました。お読みいただきありがとうございます。

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