石油化学にそれほど詳しくないので勉強してみました。前半は大竹にある会社について、後半はコンビナートの構造についてです。
大竹には石油化学系のビッグネームがいっぱい
会社好きにはたまらん地帯です。投資をしている関係で四季報を読みますが、実際の工場を目の当たりにすると、まるでプロ野球名鑑でみた選手に球場で会ったような感動を覚えます。広島県と山口県との境、大竹市。ここには中国塗料、戸田工業、三菱ケミカル、ダイセル、住友化学などが立ち並びます。戦後初期に作られた日本のコンビナートの一つです。
中国塗料は船の塗料で日本シェアナンバーワン、世界二位
中国塗料は東証1部上場(4617)船底塗料に特化した会社でありながら、塗料全体で3位、船舶用は国内シェア6割、世界シェア2位の化学系に分類される会社です。最近のトピックとしては硫黄酸化物規制強化(排ガス規制、SOx規制という)で船舶燃料が高騰し(2020/05/06現在原油価格は暴落していますが)、船体抵抗を軽減すれば船舶燃料使用量が削減できることから、防汚塗料の需要が高まっているそうです(会社四季報より引用)。
防汚塗料とはフジツボなどの生物が船底に付着しないようにするための特殊な塗料です。「船の底のことを100年間考え続けています」とホームページでアピールされています。船底塗料はフジツボなんかが着くと部分的に分解して(自己研磨)もろとも剥がれるタイプ(アクリル樹脂の亜鉛架橋が加水分解して剥がれる)と、シリコンタイプでツルツルしていてフジツボのタネがくっつきすらできないタイプなどがあります。フジツボなどがつくと、燃費が40%悪化するそうです。大竹明新化学は塗料用合成樹脂を中国塗料に供給するための連結子会社です。(中国塗料 HPより情報引用) https://www.cmp.co.jp/recruit/paint/paint03.html
戸田工業は大和の船底塗料のベンガラを製造した
戸田工業は東証1部上場(4100)酸化鉄、ベンガラ製造が発祥で1823年創業、顔料の他、カセットテープやビデオテープの磁性酸化鉄(針状酸化鉄合成)で流行った時期がありましたが、テープ需要も減少した今、次の主力製品を模索している段階の会社です。はっきり言うと今は本業がパッとしません(ゴメンナサイ)。株については仕手が入ることが過去にありました。リチウムイオン電池の正極材製造で独BASF(ここもカセットテープ作っていました)と合弁。TDKの持分法適用会社で筆頭株主はTDKです。鉛フリーの塩ビ安定剤向け材料を拡大中とのことです。どこも環境対応製品がテーマですね。
戦中、軍港として活況を呈していた頃の呉の海軍工廠へ軍艦の船底塗料を中国塗料株式会社が納入していましたが、その原料の弁柄製造を戸田工業が受け持っていました。だからだと思いますが、現在もお隣に立地しています。どうして大竹に化学コンビナートがあるのか不思議でしたが、呉の造船と関係があったようです。
富士フィルムのもとはダイセルの写真部門だった
ダイセルは東証1部上場(4202)1919年数社合併により大日本セルロイド株式会社から(略するとダイセルです!おおお!)。セルロース製造が主力でたばこフィルター用トウを作る会社、なんとシェア100%。酢酸製造、スマホなどの合成樹脂製造、化粧品原料製造も行っています。トヨタ自動車、富士フィルムなどが大株主。エアバッグの火薬を硝酸グアニジンを使って製造(播磨工場)。蛇足ですが、リコールがあったタカタのエアバッグは当時の基準に従って硝酸アンモニウムを使っていました。タカタが経営破綻した現在でも真の原因が解明されていません。硝酸グアニジンと硝酸アンモニウムはともに古くから使用される火薬の材料で、後者が加熱で相転移し戻る時にペレットがひび割れたりし、前者には相転移がないことが違いということですが、重ね重ね原因は不明です。ダイセルのインフレータでは問題は起きていません。
前後しますが、1934年に写真フィルム事業を分離し、富士写真フイルムを設立、現在の富士フィルムに。富士フィルムのもとはダイセルの写真部門でした。
三菱レーヨンから三菱ケミカルへ レーヨンについて
三菱ケミカルは三菱化学と三菱樹脂と三菱レイヨンの合併後の会社名。東証1部上場(4188)アクリル樹脂原料のメタクリル酸メチルモノマーが主力のため市況に利益が左右されます。当地にあったのはレーヨン工場。浄水器の「クリンスイ」で馴染みのある方があるかもしれません。
レーヨンは人絹(=人造絹糸)のことで、絹に似せた合成繊維のことです。光線(ray)と綿 (cotton) を組み合わせた言葉”光る綿”。レーヨンはかつて繊維会社の主力商品であったため、繊維会社はレーヨンを名称に付けていました。その「レ」が今も残っています。三菱レイヨン、東レ(旧社名東洋レーヨン)、クラレ(旧社名倉敷レイヨン)、帝人(旧社名帝国人造絹絲)。
ここ大竹の事業所については、昭和10年に大竹に人造絹糸工場、その後、昭和18年メタクリル酸メチルモノマー生産開始、2010年持株会社三菱ケミカルホールディングスグループ傘下となっています。現在炭素繊維のうち風力発電の羽根に使われるラージトウを生産をしています(カーボンファイバーには束が大きいラージトウと、より小さく高価で高品質のレギュラートウがあり、後者は航空機用です)。
大竹市周辺に化学工場が集積している理由はなぜか
上記の昭和10年に竣工した三菱レイヨン株式会社の前身である新興人絹株式会社がこの地に進出したことが化学系企業集積の第一歩で、戦後は昭和37年には大竹海兵団跡地に三井石油化学工業などが誘致され、石油化学製品を利用する企業が行政指導のもとに「縁組」され集積発展しました。
戦後初期に作られた大竹のコンビナートは、資本力のある三井財閥がコンビナートと誘導品企業を作りましたが、第三期になると誘導品企業の資本構成が多様になります。
コンビナートの構造
(コンビナートの企業構造 – わが国の石油化学コンビナートの場合 を参照しました)
化学工場は集積するメリットがあり単独企業であることは少ないです。ナフサを分解する部門が「扇の要」となって原料を供給し、誘導品を作る企業がパイプラインでつながってその周辺にあります。コンビナートを作るコストが莫大なので、上述の通り、戦後すぐは資本力のある財閥系で作られました。
ナフサを分解するナフサセンター企業が、三井石油化学、住友化学、三菱油化、日本石油、東燃、出光、丸善など。誘導品企業は多岐にわたり、塗料やタバコのフィルター、化粧品の材料など各種合成樹脂を利用した製品を製造します。
原油を石油精製して作られるのがナフサで、それをさらに分解して、エチレンなどが作られ、誘導品のポリエチレン(ポリ袋などの材料)が作られます。
誘導品工場でモノマーを重合し、樹脂としペレット状にしたものは、運ぶのにパイプラインが不要となり、トラックで遠隔に陸送が可能となります。
コンビナート内は複数の企業で構成されるため、主たる資本が諸企業の各生産部門に関与しながらコンビナート全体の生産の調整が行われています。
<参考> 石油化学工業協会 https://www.jpca.or.jp/studies/junior/tour02.html
トウ towとは?
カーボンファイバー(炭素繊維)のラージトウ レギュラートウ、それからタバコフィルターのトウ、など「トウ」がたくさん出てきたので、towとはなにかについて調べました。牽引という意味以外に次のような意味がありました。
「トウは撚り合わせていない繊維の束のこと」で一本あたりの繊維の本数によって3k tow などと呼ぶ。これに対し、Yarnは撚り合わせた繊維の束、したがってtwisted tow。untwistedであるトウ、例えばタバコのフィルタートウをほぐすと確かに撚れていません。
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