セゾン・・・季節、の意味。セゾンビールは作り手を示すようだ。トラピストビールは修道院で作られる。セゾンビールは農民が自然酵母で自然任せで作る。夏の農作業のときの飲料水として農閑期の冬に醸造したビールが定義。冬というセゾンに作って夏に飲むから、セゾンらしい。「飲料水用にビール」はトラピストビールでも同じ話を聴いた。香りがスパイシーで甘い香り、ホップの苦味は適度に効き、酸味が特徴。上面発酵ビール。ベルギー南部のワロン地方のスタイル。ワロンってどんなとこだろう。
ベルギーの南半分は、フランス語が話され、フランス語共同体と言い、ワロン地方という。ベルギーの北半分は、フラマン語(オランダ語)をしゃべるフランデレン地域、フランダースとも言う、フランダースの犬の舞台はベルギー北部だったのだ。フラマン語は低地ドイツ語に含まれる。おっと話が逸れた、フランダース(ベルギー北部)ではない方の、ベルギー南部のワロン地方の農民のビール、セゾンビールの事を調べていたのだった。
ベルギーの南半分のうち、東側でワロン語が喋られる。フランス語とワロン語とは区別される。ワロン語の祖語はローマ時代の口語のラテン語に遡る。祖語がローマ時代のラテン語に遡れるものを大枠でロマンス諸語と言う。一方公用語のフランス語はパリ方言。
ワロン語は、ロマンス諸語の一つだが、ロマンス語とは「ローマンス」ってことでローマ帝国の範囲で使われたラテン語に由来する各地の方言。イタリア語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語・ルーマニア語などもそうで、下図9のフランス北部とベルギー南部で話されるオイル語もロマンス語。オイル語の細区分がワロン語。
後述するが、フランス政府は”伝統的に”言語統一に熱心で、オイル語のパリ方言を標準語として、その他の方言を弾圧否定してきた。オイル語(北フランス語)の一部であるベルギー南部のワロン語は標準語のフランス語(パリ方言)の影響が少なく、オイル語の特徴が保たれている。
オイル諸語の分布図の右上の濃い緑のところがwallon語。ここでセゾンビールが作られる。脱線してないゾ・・
フランス語の北部と南部との軋轢について述べる。
英語の yes に相当するのは北仏ではoïl(ウィ)、南仏では oc(オック)という。この違いから「langue(s) d’oïl oïl の言葉」「langue(s) d’oc(ラングドック!) oc の言葉」という名前で分類がなされる。(南仏のワインでラングドックって言うのを飲んだことが有る。オックの言葉って意味がやっとわかった!)簡単に言うと過去の戦争に勝ったフランスの北側が南側の言語文化を抑圧する、これが軋轢の原因。
上の地図、緑の場所、「アルピタン」という何やら小林製薬っぽい名前の言語域がある。アルピタン語は絶滅危惧言語。アルピタニアと言う地域つまり、フランスとスイスとイタリアの国境の山岳地帯で使用される諸方言のことをアルピタン語という。
アルピタン地域にはリヨン、グルノーブル、ジュネーブが含まれる。オリンピックの行われたアルベールビルもある。
アルピタン語とは。
今を遡ること2千年以上前のこと、紀元前1世紀半ばから、現在のリヨンであるルグドゥーヌムを拠点に、ケルト民族が住んでいたガリア(現在のフランスからベルギーに相当する地域)北部の地域にローマが支配を広げ、ケルト系言語に代わってラテン語が話されるようになった。4世紀から5世紀頃になると、今度はゲルマン民族がガリアに移動してくる。その一派であるフランク族の言語の影響を強く受けた地域ではオイル語が形成され、その後パリ周辺の方言をもとにフランス語が形成された。一方、現在のフランコプロヴァンス語圏(=アルピタン語圏)を支配したのはゲルマン民族のなかでもブルグント族であった。ブルグント族は早い段階で支配下に置いた人々の話す俗ラテン語を話すようになったため、ブルグント族の言語がフランコプロヴァンス語に残した痕跡は少ない。フランコプロヴァンス語はラテン語の特徴をオイル語よりも保持していると言われる。
http://www.chikyukotobamura.org/muse/low131230.html
次は、フランスの方言を集めた動画。前半5分は北部フランス語。5:17以後、ラングドック(フランス南部方言)になり、ガラッと変わって驚く。とてもフランス語に聞こえない。8:28からアルビジョワ方言、8:49同じくカタリ派のいたトゥールーズ。宗教も文化もフランス王国に破壊しつくされたのに、話し言葉は細々残っている。9:14ガスコーニュ語、スペイン語の趣。11:00からアルピタン語、12:10カタルーニャ語。14:03ケルト語、14:30バスク語
ブルグントをフランス語で発音するとブルゴーニュ、ワインで有名なブルゴーニュはこの地方に侵入したゲルマン民族であるブルグントの名前に由来する。
北フランスと南フランスとの間には言語対立が有る事を先に述べた。フランク族の影響下でオイル語を発展させた北フランス(フランク王国)に対し、南フランスはフランク王国の支配下には入らず、ゲルマン民族の影響を受けない言語の独自性を保った。南側のフランス語がオック語(ラングドック)。1209年、南フランスのキリスト教教会で、権力や富の否定をし、ローマから異端とされたアルビジョワ派(カタリ派)に対し、教皇が要請し北フランスから十字軍が派遣され、長期の戦いの後、南フランスは敗北した。フランス王国(=北フランス)はオック語(南フランス語 ラングドック)を歪んだ存在として否定し、公的な価値を剥奪した(ヴィレル=コトレの勅令)。しかし人々の間で使われ続け、オック語復権運動も高まった。しかしフランス政府によってオック語教育は禁止された。地方言語に対する政策は続き、シラク大統領は言語保護の条約署名を拒否するなど現在も続く。言語統制に対し南フランスではデモが起きたり、極右の主張と重なったり。どちらが正しいのかは私にはわからない。ともかく少数話者を保護するということは行われず、減少の一途を辿る。
フランスを離れてフラマン語について。
ベルギー北部のフランデレンで使われるフラマン語(オランダ語)も簡単に。フラマン語はオランダ語と同じものの国による呼び方の違いだけ。
下図はオランダ語(オランダのオランダ語+ベルギーのフラマン語)の分布域で低地フランク語の分布域に一致し、高地ドイツ語の第二次子音推移の影響を受けていない。古代フランク人の古フランク語のうち、第二次子音推移の影響を受けなかった北部の言語が元という考え方がある一方で、別の言語であるという考えもある。フラマン語をドイツ政府はドイツ語の方言という。政治的な要素が言語分類に反映されている。
低地ドイツ語 (緑 上部ドイツ語、青 中部ドイツ語 黄 低地ドイツ語)
中部上部ドイツ語(南部ドイツ語)には格変化が4つ存在するのに対し、低地ドイツ語は英語のように格変化が3つであることや、子音変化が中部上部ドイツ語(南部ドイツ語)にはあるが、低地ドイツ語(ドイツ北部)には無いことから、低地ドイツ語はドイツ語の方言ではなく、独立した言語に由来する説がある。そのひとつがアングロフリジア語群に包含する説である。アングロフリジア語群の分布を次に示す。
ドイツ南部に端を発しドイツ中部までは存在するが、北部ドイツには存在しない子音変化のことを”第二次子音推移”と言う。下図着色域には”第二次子音推移”がない。
アングロフリジア語群の分布を見るとフリジア語(青系)はユトランド半島の根本北フリースラント、ドイツ北西部ニーダーザクセン州ザーターランド(saterland)の東フリジア、オランダ北部のフリースラント州に離れて存在しているが、かつて連続性があったことが推測される。青いフリジア語の地域と、グレートブリテン島の英語とは言語的特徴のみならず、歴史的関係がある。
スカンジナビアからやってきた海賊デーン人の圧迫によって(下図)、ユトランド半島の先住民であるジュート人、アングロ人、サクソン人はグレートブリテン島に逃げた。海に逃げず陸にとどまったサクソン人の一部は南下し、現在のニーダーザクセン州にとどまる。お気付きの通り、アングロサクソンの”サクソン”とドイツザクセン州の”ザクセン”は同語源、英語読みかドイツ語読みかの違いだけで同じものを指す。
その後の東方移民の際、現在のザクセン州(ドレスデンやライプツィヒのあたり)まで住む場所を拡大した。
フリジアン(2つ前の地図、Frisians ピンクのところ)はドイツ北部からベルギー、フランス北東部にかけて連続性をもって分布していた。英語とともにアングロフリジア語群に属する。最も英語に近い言語。
北海沿岸諸語の近縁性、低地ドイツ語と英語との類似性(格変化が同数)、低地ドイツ語に第二次子音変化がないこと、などを下敷きに、”低地ドイツ語はドイツ語の方言”という考え方以外に、北部ドイツ語は中南部ドイツ語とは由来が異なるという論が展開されうる。
イングランドはアングロ人ランドに由来。デーン人はユトランド半島に住み着いてデンマーク(Danmörk デーン人の土地)と名付けた。
イギリスの南岸の地名に「なんちゃらセックス」が多いのは子供の頃からの一大関心事であった。サクソン人がグレートブリテン島の南側に住み着いて居た。謎がとけた。
- エセックス(Essex)は East Saxons
- サセックス(Sussex)は South Saxons
- ウェセックス(Wessex)は West Saxons
- ミドルセックス(Middlesex)は Middle Saxons
そろそろまとめらしいことを書いて終わろう。
・国民国家成立とともにフランスもドイツも中央集権のために言語を力づくで統一せざるをえないことは理解できる一方で、反発を受け、軋轢を生み、政治の不安定要素となって今に続いている。また少数言語が絶滅の危機に直面している。
・イギリス人はもとは北ドイツに住んでいたドイツ人の一部に由来する。後の世にイギリス人とドイツ人が戦争するとは・・・。
・サクソンとザクセンは同じ物を指す。
・ベルギー北部の言語フラマン語はオランダ語と同一であり呼び方の違いだけ。
・イギリスの地名○○セックスはサクソン人の土地、を指す。
・オランダは、オランダ語(Dutch)が公用語だが、フリースラント州ではフリジア語(西フリジア語)も公用語として認められている。
調べ物をするとついつい長くなってしまいます。まとまりがなくてごめんなさい。
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